「優しいまなざし」

創世記29章14b-30節

 ヤコブは、故郷であるカナンの地を旅立ち、見も知らない土地であるハランの地にやって来ました。いよいよこれからハランでの新たな歩みが始まりました。ハランには、知り合いなんてほとんどいません。唯一の身内は、ラバンとその家族だけでした。彼らだけがヤコブにとっての頼みの綱でした。ヤコブが、ハランの地での生活を始めて一か月ほどが経った頃のことです。ラバンはヤコブに対して、「お前は身内の者だからといって、ただで働くことはない。どんな報酬が欲しいか言ってみなさい」(29:15)と言ってきました。ヤコブはこの言葉を聞いて「何ていい人なんだろう」と思ったんじゃないかと思います。ヤコブは、ストレートにラバンに自分の願いを申し出ます。「ラケルと結婚させてください。そうすれば、わたしは七年間あなたの所で働きます」(29:18)。ラバンはこの申し出を快く受け入れてくれます。こうしてヤコブは早速、ラバンのもとで働くことになりました。29:20には「ヤコブはラケルのために七年間働いたが、彼女を愛していたので、それはほんの数日のように思われた」と書かれています。この七年間のヤコブを思う時、よほど活き活きと生活していたのだろうなと思います。何と言うのでしょう。人というのは、自分たちのしていることに明確な目標、目的があれば、苦労を苦労とも思わないということがあるのだと思います。そんな思いで、7年間を過ごすことになりました。しかしながら、ここから雲行きが怪しくなってきます。約束の七年が経ち、改めて結婚を申し出で、結婚式をしたところ、朝起きると、そこにいたのは、ラケルの姉のレアだったというのです。「約束と違うじゃないか」そんな思いだったと思います。ただヤコブとしては、立場上、ラバンに対して、あれこれと物申すこともできなかったのだと思います。ヤコブはラバンに言われたとおり、レアとの結婚式を終えた後、さらにラケルとも結婚式を行ない、ラバンとの約束通り、さらに七年間、ラバンのもとで働くことになったのです。

 本日の箇所には、そのような出来事が記されているのですが、この箇所からどんなメッセージを聞くことができるでしょう。ヤコブの視点に立って言うなら、「こんなはずじゃなかったのに」という思いがあったのではないでしょうか。ヤコブはこんなに長いことハランにいるなんて、思いもしなかったんじゃないかと思います。しかし、ヤコブにとって、ハランでの日々は決して無駄ではありませんでした。むしろこのハランでの日々は、その後のヤコブにとって本当に重要な意味を持っていくのです。ヤコブはこのハランでの生活で大切なことをたくさん学ぶことになるのです。ヤコブはここでラケルと結婚するだけでなく、レアと結婚し、さらにジルパとビルハも召使いとして仕えるようになっていきました。彼女たちはそれぞれ、ヤコブの子どもたちを生むことになります。そして、この子どもたちがイスラエル民族の礎を築くことになるのです。そのことを思う時、ヤコブにとっては、全くの計画外、こんなはずじゃなかったと思うような無駄足、回り道のような経験だったかも知れませんが、決してそうではなかったのです。

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